本|一月に読んだ面々

hiroedaの本棚 - 2013年01月 (12作品)
人間仮免中
卯月妙子
読了日:01月11日
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本『定本 真木悠介著作集Ⅳ 南端まで』

普通の「旅」の本としてもこれは読むことはできるだろうが、恐らくそのような目的でもって、この本を読む人はいないであろう・・・。多くのこの本の読み手は、社会学真木悠介の仕事の一つとしてこの本を受容しようとするだろう。僕もそうであったけれど、しかし、それだけではとてももったいない内容であると思う。とてもみずみずしい、きれいな文章が随所に散見されるし、本当に素晴らしい一つの「旅」の本であると僕は思うからだ。学術書とか社会学の本でなく、単に「旅」の本としても本書は十分に読めるだろうし、そのように読むべきであるようにも思える。
「狂気としての近代」「方法としての旅」は、僕の新しい旅の本のバイブルになった。『気流の鳴る音』と並ぶ大傑作だと思う。

映画『LOOPER』

監督:ライアン・ジョンソン

ジョセフ・ゴードン=レーヴィットvsブルース・ウィルス。正直、あまり面白さは感じないし、一貫して予定調和的。
監督が『ターミネーター』が好きなことは、嫌というほど伝わってくるけれども、ヒロインの名前を「サラ」にしてはちょっと興ざめですよ・・・。
ふけ顔で変顔のレーヴィットは、ブルース・ウィルスに似せるためだったのですね・・・。
新年一発目は不作でした。

あけましておめでとうございます。

今年は、色々とここで「書くこと」の練習をしていこうというのが、目標であります。それは同時に「読むこと」への練習にも繋がるのだと言うことを、正月に↓で学びました。
松浦寿輝×小林康夫 対談」
http://amanefjt.blogspot.jp/2011/01/blog-post_27.html

ポール・ド・マンも『盲目と洞察』の中で、同じようなことを言っているような気がしてとても感動しました。

―――「読むこと」と「書くこと」への実践に向けて

2012年のベスト3な邦画

極私的総論。
今年は、あまり邦画を見ませんでした。年始一発目の園子温監督『ヒミズ』が自分にとっては、あまり良くなかったこと。西川美和監督の『夢売る二人』も前三作に比べてあまり面白くなかったなど、期待はずれもいくつか。それに今年は(あくまで勝手に)日本映画界の双璧だと思っている黒沢清監督と青山真治監督、どちらもとも作品を発表されなかったことも大きかった気が。しかし、出自が同系列の周防正行監督『終の信託』は取り扱う問題が時期的にもベストでいつもながらの堅実な作りでとても楽しめた。そういえば『ヘルタースケルター』を見れていないことは反省・・・。
総じて邦画全体では、パッとしない1年であったように思う。めっっっっさつまらん邦画にも出会っていなかったので、ワーストは割愛。
来年に期待しよう。。。

そんな中で、今年の邦画は何と言っても・・・

◯ベスト3

監督:吉田大八
主演:神木隆之介橋本愛東出昌大

これ。劇場で見て、椅子から転げ落ちそうになった。むちゃくちゃ面白かったし、とてつもない完成度にエンドロールでスタンディング・オーベーションしたい衝動に駆られた。よく指摘されるようにガス・ヴァン・サント監督の傑作『エレファント』で用いられる方法論を見事に取り入れた青春群像劇。高校生という微妙な年頃と学校というあの奇妙なほどに閉鎖的な空間の息苦しさをとてもとても丁寧に描いている。
これは個人的には十年に一度出るかでないかぐらいの大・大・大傑作だと思います。
それと橋本愛の美しさ/かわいさだけで、ご飯3杯いけますね。


監督:北野武
主演:ビートたけし西田敏行三浦友和加瀬亮

そして、これ。北野作品は一時期、狂ったように見続けて今でも初期作品は偏愛するけれども、ここ最近(あの三部作)はあまりというか全然「面白い」と思えなかっただけに、この作品はただただ単純に面白かったので、すこぶる嬉しかった。この作品を見た後に改めて『アウトレイジ』を早急に見返したのだが、その余韻からか初見とは印象が違いとても面白かった・・・笑。


監督:三池崇史
主演:伊藤英明二階堂ふみ染谷将太

何だか某アイドルがトンチンカンなことを仰っていて、とてもとてもかわいらしく純粋な子ねーと微笑ましく思うのですが、身も心も小汚い私目はこの映画大好きです。かつて興奮して、何度も見た深作欣二監督『バトル・ロワイヤル』を想起せざるをえない、これぞ映画的体験という爽快感とカタルシス。三池監督の作品は、初めて見たのだが、こんなにも面白いのか!と。他の膨大な作品群も見てみたいと思った。

2012年に読んだ本あれこれ

今年も色々な本に出会えました。来年は、どんな本に出会えるか楽しみですござんす。

◯小説関連
今年は何と言っても「松浦理英子」イヤーでした。3月に読んだ『ナチュラル・ウーマン』はとてもとても素晴らしく「今年はこれ以上の作品に出会えるのか」と感想をtwitterで書いたけれども、やはり出会えなかった笑。松浦作品は、だいたい全て今年読んだけれども、どれもこれも抜群に面白い。著者自身も明言しているように、どの作品でも性器結合主義批判が徹底的に展開されている(一番新しい作品の『奇貨』では、男女間の「友愛」が描かれる)。どのように作品を受取っていいものかまだまだ自分の中で消化しきれていないけれども、しかし、圧倒的に面白いことは間違いない。何度も読んで自分のなかで熟成させていきたい。
中でも、やはり

ナチュラル・ウーマン

ナチュラル・ウーマン

犬身

犬身

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

です。今年出た『奇貨』も良かったですが。。。
あとはこれ
極北

極北

3・11を経験した僕らには、この世界観がどうしても異世界=物語の世界であるとは思えない。とても重厚な小説世界。

あとは、紀行文関連で石川直樹さんの『全ての装備を知恵に置き換えること』

全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)

全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)

一つ一つのエッセーは短くて、もう少し長くてもいいかと思うけれど、しかし「小さな世界 東京」を読むだけでもこの本を買う価値はあります。とても素敵な文章を書く冒険家です。その関連でブルース・チャトウィン『ソングライン』も読んだけれど、こちらはあまりだった。来年にでも『パタゴニア』を読む。

◯映画関連
何と言っても個人的には、今年は『ゴダール 映画史』が文庫化されたことでしょう。それにちなんで清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った『ゴダール全評論・全発言?』こちらもまだ全てを読めていないけれども、面白いっす。特に、アウシュビッツと映画に関して発言するゴダールの発言は、下でも紹介するユベルマン『イメージ、それでもなお』でも取り上げられており熟読必須です。

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)

ゴダール全評論・全発言3 (リュミエール叢書)

ゴダール全評論・全発言3 (リュミエール叢書)

それと蓮實重彦『映画論講義』(東京大学出版会)。これまで文体的なそれで、ハスミンの文章は忌避していたけれども、これは「です/ます」調で口語体で書かれているせいかめちゃくちゃ面白かった。調子こいて『ゴダール・マネ・フーコー』に言ったら、やはり文体的なそれで挫折した笑。来年は、ハスミン文体に慣れるようにするぞ。
映画論講義

映画論講義

◯学術関連
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお』がとてもとても刺激的でした。《地獄からもぎとられた4枚の写真》の展示展を巡って沸き起った、ショアーの表象(不)可能性についての議論。20世紀に出現したこの「イメージ」という奇特な現象に対して、その肯定的側面と負の側面、その両側面をきちんと論じ(イメージの〈二重の体制〉)ながら、「それでもなお」、ショアーの表象不可能性を論じあらゆるイメージの存在を否定することで、この問題を論争不可能なレベルにし神学にしてしまおうとする一群(=ランズマン派)に抵抗し、イメージが有する可能性から、ショアーの表象可能性を力強く論じようとする好著。とてもとても面白かった。

イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真

イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真

松浦寿輝先生の『エッフェル塔試論』、こちらも面白かった。エッフェル塔に取り憑かれた著者が、表象されるエッフェルのその全てを語り尽くそうとする異様な熱気に満ちた本。再刊行された同著者『平面論』(岩波書店)は、まだちょっと未消化・・・笑。来年、新潮社から出る『明治の表象空間』もとても楽しみ。
エッフェル塔試論 (ちくま学芸文庫)

エッフェル塔試論 (ちくま学芸文庫)

それとこれ。
盲目と洞察―現代批評の修辞学における試論 (叢書・エクリチュールの冒険)

盲目と洞察―現代批評の修辞学における試論 (叢書・エクリチュールの冒険)

今年(というか、年の瀬)は、ポール・ド・マンの主著『読むことのアレゴリー』も出版されたけれども、まずは、こちらから。ポール・ド・マン、初めて読んだけど、鬼難しい・・・。っが、〈読む〉という行為を徹底的に考え抜こうとするド・マンの姿勢には感動すらする。久々に興奮し、何度も繰り返し「わからーーん」とぼやきつつ、テクストに向っている。ド・マンの文体の難解さは、恐らく彼自身の批評的態度から来ているものなのかな・・・と。正月もじっくり読む。
もう一つ。本書、冒頭に引かれているプルーストの言葉がとても良いです。

こんなふうに永遠に続く誤りこそ、まさに「生」というものなのだ・・・
プルースト失われた時を求めて』)


あとは、以下の本もとても刺激的だった。

社会 (思考のフロンティア)

社会 (思考のフロンティア)

↑「社会的」という日本語にはこれまで、何が欠落し何が忘れ去られていたのか。「社会的」なる概念を系譜学的に巡り直すことで、その概念を再構成=鍛錬させる。
社会学 (ヒューマニティーズ)

社会学 (ヒューマニティーズ)

↑「社会学に何ができ、社会学は何をすべきなのか。」その一つの回答がこの本で見つかる(と思う)。大学生の社会学徒時代に読んでおきたかったです。市野川先生の本は、どれも難しいけれども、とても勉強になる。
わたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義

わたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義

新自由主義と権力―フーコーから現在性の哲学へ

新自由主義と権力―フーコーから現在性の哲学へ

気流の鳴る音 (定本 真木悠介著作集 第1巻)

気流の鳴る音 (定本 真木悠介著作集 第1巻)

↑西洋的原理が強靭に吸着した現在において、それとは異なる時間を生き、オルタナティブな社会構想を行うためには何が必要であり、何を見るべきなのか。『真木悠介 著作集第二巻 時間の比較社会学』と一緒に読むべき。
官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

↑政治思想史の枠組みからどのように現実的な諸問題にアプローチできるのかという、非常に貴重な試みであると思う。学生時代に読んでおけば良かった。。。タイトルは丸山真男からのをもじっているのは言うに及ばず笑。

来年は、経済と精神分析をもういい加減、きちんと入門する。

2012年のベスト3とワースト洋画

極私的総論。
今年は、夏休みのアメコミ映画3本に期待していたのですが、どれもあまり面白くなかったことから「今年は不作な年かな」とも思っていた。が、秋以降になって良い作品にいくつか出会えたし、振り返ってみれば、今年の思いで深い=良作の多くが前半に観たばかりのもので・・・。
まあ、結果的には今年も素敵な素晴らしい作品はいくつもありましたということです。
ということで、まずはベスト3とワースト洋画をピックアップ。

◯ベスト3


シェイム
監督:スティーヴ・マックイーン
主演:マイケル・ファスベンダーキャリー・マリガン
あらすじなどはこちらを→http://eiga.com/movie/57624/

青山真治監督のまぎれもない大傑作『EUREKA』と付き合わせてみると良いと思う。本作と『EUREKA』のテーマは「共有化不可能な〈傷〉の治癒はいかにして可能か?」というもの。両作品は真っ向から対立している。本作『シェイム』は、快楽(しかもそれは多分に倒錯的でサディスティックな性的快楽)によってしか精神的な〈傷〉の治癒はできないのではないかという、なかなかどのように受け取っていいのかわからない結論―それって「治癒」というよりも単なる「忘却」じゃないかとーになっていて、とてもとても考えさせられる。もう一度お正月に見よう。
いずれにしても俊英のスティーブ・マックイーン監督、今後も期待。それにこの映画で知った主演のマイケル・ファスベンダー。今年は、リドリー・スコット監督の大作『プロメテウス』(この壮大なおバカ映画は好きです)、デヴィット・クローネンバーグ『危険なメソッド』(冒頭のキーナ・ナイトレイのヒステリー症状が見物です)など個人的には、今年はファスベンダー・イヤーでしたよ笑。


ミッドナイト・イン・パリ
監督:ウッディ・アレン
主演:キャシー・ベイツオーウェン・ウィルソン、マリヤン・コティヤール、エイドリアン・ブロディ
あらすじなどはこちら→http://eiga.com/movie/56604/

いや、素晴らしかった。とにかくパリが好きな人、1920年代というその時代が好きな人、文学が好きな人は全て必見です。それにマリオン・コティヤールとレア・セドゥの二人のパリジェンヌがとてもとてもいいのです。
単純にエンターテイメントとしても楽しめるけれども、常に「いまーここ」から疎外される近代人の苦悩が描かれているのかなと思い、何となく「現在性からの疎外」というキーワードが思い浮かんだ(それは大いに、某社会学者の本を著作集を再読していたからかもしれない)。これについてもお正月にもう一度ゆっくりと鑑賞し、考えたい。
いずれにせよ、懐古主義者たちは、ウッディ・アレンに優しく叱られ嗜められますよ。



人生はビギナーズ
監督:マイク・ミルズ
主演:ユアン・マクレガークリストファー・プラマーメラニー・ロラン
あらすじはこちら→http://eiga.com/movie/56786/

老年の父から突然「自分はゲイだ。これからはゲイとして生きていくけれども、母さんのことは愛していた」と告げられた息子が戸惑いながらも父と生活するが、父の死(癌)の喪失感と父と母の複雑な関係に苦悩するという話。一見すると暗そうな内容だけど、そんなことはなくポップでキュートな作りになっているのだが、とても良い。自由な国であるアメリカにおいて、しかも公民権運動期において「ゲイ」であることがいかに過酷な生を強いられていたのかも垣間見える。そこにユダヤ人問題なども絡まってくるのだが・・・。
物語の時間軸が意外に複雑になっている。
どうでもいいことかもしれないけれど(いや、どうでもよくない。)、ユアン・マクレガーの彼女役を演じるメラニー・ロランは、当代きってのフランス美女だと思うのです。とてもとても美しいのです。

◯ワースト


ダークナイトライジング』
監督:クリストファー・ノーラン
主演:クリスチャン・ベールトム・ハーディマリオン・コティヤールマイケル・ケイン

言いたい事は山ほどあるのだが、やはり自分の中で期待がはちきれんばかりに大きかっただけに、見事なアメコミ的予定調和な結論に「ふざけんな!こんなもんノーラン監督には期待してねーよ!」って感じでした。

もちろん、冒頭のシーンはやはり素晴らしいですし、バットマンもかっこいいので、ごくごく普通のアメコミ映画として見れば楽しめるのでしょう。しかし、しかしですよ。我々は、クリストファー・ノーランの作るバットマンには、西洋キリスト教における古典的問題としての神義論や哲学的問題としての善悪論が「主題」としてあることを『ビギンズ』『ダークナイト』を見ることによって知っているわけです。あるいは『プレステージ』や『インセプション』のように比喩的に「映画の構造」を暴露してしまうようなメタ視点。それら批評的に論じられるべき要素が今作においては、全く削がれ落ちてしまっている(たしかに金融危機やオキュパイ・ウォール・ストリートなどの時事的なテーマが取り扱われてはいるけれども・・・)。やはりノーラン作品を愛する者としては憤慨ものですよ。まあ、ただ単に僕が見落としているだけなのかもしれないけれど。監督ではないけれども、製作総指揮の『スーパーマン』に期待しますよ。

ついでに言えば、『アベンジャーズ』も相当つまらなかったですが、エンドクレジットが終わった後に出てくる、ヒーロー達のあの疲れた姿は、強烈に良かったです。何だか僕らが欲望するアメコミ・シーンを存分に取り込み精一杯に世界平和のためではなく観客のために働いたヒーロー達が「どうだい?楽しかったろ。でも俺たち疲労困憊さ。次回作も決まっちまったようだし、あんたら(=観客)の欲望に応えるのは大変なんだぜ」と言っているようで、とてもとても意味深であのシーンだけが強烈に面白かった。