本|一月に読んだ面々
本『定本 真木悠介著作集Ⅳ 南端まで』
南端まで――旅のノートから (定本 真木悠介著作集 第4巻)
- 作者: 真木悠介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/01/12
- メディア: 単行本
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「狂気としての近代」「方法としての旅」は、僕の新しい旅の本のバイブルになった。『気流の鳴る音』と並ぶ大傑作だと思う。
あけましておめでとうございます。
今年は、色々とここで「書くこと」の練習をしていこうというのが、目標であります。それは同時に「読むこと」への練習にも繋がるのだと言うことを、正月に↓で学びました。
「松浦寿輝×小林康夫 対談」
http://amanefjt.blogspot.jp/2011/01/blog-post_27.html
ポール・ド・マンも『盲目と洞察』の中で、同じようなことを言っているような気がしてとても感動しました。
―――「読むこと」と「書くこと」への実践に向けて
2012年のベスト3な邦画
極私的総論。
今年は、あまり邦画を見ませんでした。年始一発目の園子温監督『ヒミズ』が自分にとっては、あまり良くなかったこと。西川美和監督の『夢売る二人』も前三作に比べてあまり面白くなかったなど、期待はずれもいくつか。それに今年は(あくまで勝手に)日本映画界の双璧だと思っている黒沢清監督と青山真治監督、どちらもとも作品を発表されなかったことも大きかった気が。しかし、出自が同系列の周防正行監督『終の信託』は取り扱う問題が時期的にもベストでいつもながらの堅実な作りでとても楽しめた。そういえば『ヘルタースケルター』を見れていないことは反省・・・。
総じて邦画全体では、パッとしない1年であったように思う。めっっっっさつまらん邦画にも出会っていなかったので、ワーストは割愛。
来年に期待しよう。。。
そんな中で、今年の邦画は何と言っても・・・
◯ベスト3
監督:吉田大八
主演:神木隆之介、橋本愛、東出昌大
これ。劇場で見て、椅子から転げ落ちそうになった。むちゃくちゃ面白かったし、とてつもない完成度にエンドロールでスタンディング・オーベーションしたい衝動に駆られた。よく指摘されるようにガス・ヴァン・サント監督の傑作『エレファント』で用いられる方法論を見事に取り入れた青春群像劇。高校生という微妙な年頃と学校というあの奇妙なほどに閉鎖的な空間の息苦しさをとてもとても丁寧に描いている。
これは個人的には十年に一度出るかでないかぐらいの大・大・大傑作だと思います。
それと橋本愛の美しさ/かわいさだけで、ご飯3杯いけますね。
監督:北野武
主演:ビートたけし、西田敏行、三浦友和、加瀬亮
そして、これ。北野作品は一時期、狂ったように見続けて今でも初期作品は偏愛するけれども、ここ最近(あの三部作)はあまりというか全然「面白い」と思えなかっただけに、この作品はただただ単純に面白かったので、すこぶる嬉しかった。この作品を見た後に改めて『アウトレイジ』を早急に見返したのだが、その余韻からか初見とは印象が違いとても面白かった・・・笑。
何だか某アイドルがトンチンカンなことを仰っていて、とてもとてもかわいらしく純粋な子ねーと微笑ましく思うのですが、身も心も小汚い私目はこの映画大好きです。かつて興奮して、何度も見た深作欣二監督『バトル・ロワイヤル』を想起せざるをえない、これぞ映画的体験という爽快感とカタルシス。三池監督の作品は、初めて見たのだが、こんなにも面白いのか!と。他の膨大な作品群も見てみたいと思った。
2012年に読んだ本あれこれ
今年も色々な本に出会えました。来年は、どんな本に出会えるか楽しみですござんす。
◯小説関連
今年は何と言っても「松浦理英子」イヤーでした。3月に読んだ『ナチュラル・ウーマン』はとてもとても素晴らしく「今年はこれ以上の作品に出会えるのか」と感想をtwitterで書いたけれども、やはり出会えなかった笑。松浦作品は、だいたい全て今年読んだけれども、どれもこれも抜群に面白い。著者自身も明言しているように、どの作品でも性器結合主義批判が徹底的に展開されている(一番新しい作品の『奇貨』では、男女間の「友愛」が描かれる)。どのように作品を受取っていいものかまだまだ自分の中で消化しきれていないけれども、しかし、圧倒的に面白いことは間違いない。何度も読んで自分のなかで熟成させていきたい。
中でも、やはり
- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1994/10
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- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2007/10/05
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- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2006/04/05
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- 作者: 松浦理英子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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あとはこれ
- 作者: マーセル・セロー,村上春樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2012/04/07
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あとは、紀行文関連で石川直樹さんの『全ての装備を知恵に置き換えること』
- 作者: 石川直樹
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/11/20
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◯映画関連
何と言っても個人的には、今年は『ゴダール 映画史』が文庫化されたことでしょう。それにちなんで清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った『ゴダール全評論・全発言?』こちらもまだ全てを読めていないけれども、面白いっす。特に、アウシュビッツと映画に関して発言するゴダールの発言は、下でも紹介するユベルマン『イメージ、それでもなお』でも取り上げられており熟読必須です。
- 作者: ジャン=リュックゴダール,Jean‐Luc Godard,奥村昭夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/02/01
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- 作者: ジャン=リュック・ゴダール,奥村昭夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/03/25
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- 作者: 蓮實重彦
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2008/09/27
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- 作者: 蓮實重彦
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2008/11/17
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◯学術関連
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお』がとてもとても刺激的でした。《地獄からもぎとられた4枚の写真》の展示展を巡って沸き起った、ショアーの表象(不)可能性についての議論。20世紀に出現したこの「イメージ」という奇特な現象に対して、その肯定的側面と負の側面、その両側面をきちんと論じ(イメージの〈二重の体制〉)ながら、「それでもなお」、ショアーの表象不可能性を論じあらゆるイメージの存在を否定することで、この問題を論争不可能なレベルにし神学にしてしまおうとする一群(=ランズマン派)に抵抗し、イメージが有する可能性から、ショアーの表象可能性を力強く論じようとする好著。とてもとても面白かった。
イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真
- 作者: ジョルジュ・ディディ=ユベルマン,Georges Didi-Huberman,橋本一径
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2006/08/08
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- 作者: 松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/02
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盲目と洞察―現代批評の修辞学における試論 (叢書・エクリチュールの冒険)
- 作者: ポールド・マン,Paul De Man,宮崎裕助,木内久美子
- 出版社/メーカー: 月曜社
- 発売日: 2012/09/01
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もう一つ。本書、冒頭に引かれているプルーストの言葉がとても良いです。
あとは、以下の本もとても刺激的だった。
- 作者: 市野川容孝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/10/26
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- 作者: 市野川容孝
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/06/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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わたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義
- 作者: カトリーヌマラブー,Catherine Malabou,桑田光平,増田文一朗
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2005/06
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- 作者: 佐藤嘉幸
- 出版社/メーカー: 人文書院
- 発売日: 2009/12
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- 作者: 真木悠介
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/10/11
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官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)
- 作者: 野口雅弘
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2011/09/22
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来年は、経済と精神分析をもういい加減、きちんと入門する。
2012年のベスト3とワースト洋画
極私的総論。
今年は、夏休みのアメコミ映画3本に期待していたのですが、どれもあまり面白くなかったことから「今年は不作な年かな」とも思っていた。が、秋以降になって良い作品にいくつか出会えたし、振り返ってみれば、今年の思いで深い=良作の多くが前半に観たばかりのもので・・・。
まあ、結果的には今年も素敵な素晴らしい作品はいくつもありましたということです。
ということで、まずはベスト3とワースト洋画をピックアップ。
◯ベスト3
『シェイム』
監督:スティーヴ・マックイーン
主演:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン
あらすじなどはこちらを→http://eiga.com/movie/57624/
青山真治監督のまぎれもない大傑作『EUREKA』と付き合わせてみると良いと思う。本作と『EUREKA』のテーマは「共有化不可能な〈傷〉の治癒はいかにして可能か?」というもの。両作品は真っ向から対立している。本作『シェイム』は、快楽(しかもそれは多分に倒錯的でサディスティックな性的快楽)によってしか精神的な〈傷〉の治癒はできないのではないかという、なかなかどのように受け取っていいのかわからない結論―それって「治癒」というよりも単なる「忘却」じゃないかとーになっていて、とてもとても考えさせられる。もう一度お正月に見よう。
いずれにしても俊英のスティーブ・マックイーン監督、今後も期待。それにこの映画で知った主演のマイケル・ファスベンダー。今年は、リドリー・スコット監督の大作『プロメテウス』(この壮大なおバカ映画は好きです)、デヴィット・クローネンバーグ『危険なメソッド』(冒頭のキーナ・ナイトレイのヒステリー症状が見物です)など個人的には、今年はファスベンダー・イヤーでしたよ笑。
『ミッドナイト・イン・パリ』
監督:ウッディ・アレン
主演:キャシー・ベイツ、オーウェン・ウィルソン、マリヤン・コティヤール、エイドリアン・ブロディ
あらすじなどはこちら→http://eiga.com/movie/56604/
いや、素晴らしかった。とにかくパリが好きな人、1920年代というその時代が好きな人、文学が好きな人は全て必見です。それにマリオン・コティヤールとレア・セドゥの二人のパリジェンヌがとてもとてもいいのです。
単純にエンターテイメントとしても楽しめるけれども、常に「いまーここ」から疎外される近代人の苦悩が描かれているのかなと思い、何となく「現在性からの疎外」というキーワードが思い浮かんだ(それは大いに、某社会学者の本を著作集を再読していたからかもしれない)。これについてもお正月にもう一度ゆっくりと鑑賞し、考えたい。
いずれにせよ、懐古主義者たちは、ウッディ・アレンに優しく叱られ嗜められますよ。
『人生はビギナーズ』
監督:マイク・ミルズ
主演:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン
あらすじはこちら→http://eiga.com/movie/56786/
老年の父から突然「自分はゲイだ。これからはゲイとして生きていくけれども、母さんのことは愛していた」と告げられた息子が戸惑いながらも父と生活するが、父の死(癌)の喪失感と父と母の複雑な関係に苦悩するという話。一見すると暗そうな内容だけど、そんなことはなくポップでキュートな作りになっているのだが、とても良い。自由な国であるアメリカにおいて、しかも公民権運動期において「ゲイ」であることがいかに過酷な生を強いられていたのかも垣間見える。そこにユダヤ人問題なども絡まってくるのだが・・・。
物語の時間軸が意外に複雑になっている。
どうでもいいことかもしれないけれど(いや、どうでもよくない。)、ユアン・マクレガーの彼女役を演じるメラニー・ロランは、当代きってのフランス美女だと思うのです。とてもとても美しいのです。
◯ワースト
『ダークナイト・ライジング』
監督:クリストファー・ノーラン
主演:クリスチャン・ベール、トム・ハーディ、マリオン・コティヤール、マイケル・ケイン
言いたい事は山ほどあるのだが、やはり自分の中で期待がはちきれんばかりに大きかっただけに、見事なアメコミ的予定調和な結論に「ふざけんな!こんなもんノーラン監督には期待してねーよ!」って感じでした。
もちろん、冒頭のシーンはやはり素晴らしいですし、バットマンもかっこいいので、ごくごく普通のアメコミ映画として見れば楽しめるのでしょう。しかし、しかしですよ。我々は、クリストファー・ノーランの作るバットマンには、西洋キリスト教における古典的問題としての神義論や哲学的問題としての善悪論が「主題」としてあることを『ビギンズ』『ダークナイト』を見ることによって知っているわけです。あるいは『プレステージ』や『インセプション』のように比喩的に「映画の構造」を暴露してしまうようなメタ視点。それら批評的に論じられるべき要素が今作においては、全く削がれ落ちてしまっている(たしかに金融危機やオキュパイ・ウォール・ストリートなどの時事的なテーマが取り扱われてはいるけれども・・・)。やはりノーラン作品を愛する者としては憤慨ものですよ。まあ、ただ単に僕が見落としているだけなのかもしれないけれど。監督ではないけれども、製作総指揮の『スーパーマン』に期待しますよ。
ついでに言えば、『アベンジャーズ』も相当つまらなかったですが、エンドクレジットが終わった後に出てくる、ヒーロー達のあの疲れた姿は、強烈に良かったです。何だか僕らが欲望するアメコミ・シーンを存分に取り込み精一杯に世界平和のためではなく観客のために働いたヒーロー達が「どうだい?楽しかったろ。でも俺たち疲労困憊さ。次回作も決まっちまったようだし、あんたら(=観客)の欲望に応えるのは大変なんだぜ」と言っているようで、とてもとても意味深であのシーンだけが強烈に面白かった。