2012年のベスト3とワースト洋画

極私的総論。
今年は、夏休みのアメコミ映画3本に期待していたのですが、どれもあまり面白くなかったことから「今年は不作な年かな」とも思っていた。が、秋以降になって良い作品にいくつか出会えたし、振り返ってみれば、今年の思いで深い=良作の多くが前半に観たばかりのもので・・・。
まあ、結果的には今年も素敵な素晴らしい作品はいくつもありましたということです。
ということで、まずはベスト3とワースト洋画をピックアップ。

◯ベスト3


シェイム
監督:スティーヴ・マックイーン
主演:マイケル・ファスベンダーキャリー・マリガン
あらすじなどはこちらを→http://eiga.com/movie/57624/

青山真治監督のまぎれもない大傑作『EUREKA』と付き合わせてみると良いと思う。本作と『EUREKA』のテーマは「共有化不可能な〈傷〉の治癒はいかにして可能か?」というもの。両作品は真っ向から対立している。本作『シェイム』は、快楽(しかもそれは多分に倒錯的でサディスティックな性的快楽)によってしか精神的な〈傷〉の治癒はできないのではないかという、なかなかどのように受け取っていいのかわからない結論―それって「治癒」というよりも単なる「忘却」じゃないかとーになっていて、とてもとても考えさせられる。もう一度お正月に見よう。
いずれにしても俊英のスティーブ・マックイーン監督、今後も期待。それにこの映画で知った主演のマイケル・ファスベンダー。今年は、リドリー・スコット監督の大作『プロメテウス』(この壮大なおバカ映画は好きです)、デヴィット・クローネンバーグ『危険なメソッド』(冒頭のキーナ・ナイトレイのヒステリー症状が見物です)など個人的には、今年はファスベンダー・イヤーでしたよ笑。


ミッドナイト・イン・パリ
監督:ウッディ・アレン
主演:キャシー・ベイツオーウェン・ウィルソン、マリヤン・コティヤール、エイドリアン・ブロディ
あらすじなどはこちら→http://eiga.com/movie/56604/

いや、素晴らしかった。とにかくパリが好きな人、1920年代というその時代が好きな人、文学が好きな人は全て必見です。それにマリオン・コティヤールとレア・セドゥの二人のパリジェンヌがとてもとてもいいのです。
単純にエンターテイメントとしても楽しめるけれども、常に「いまーここ」から疎外される近代人の苦悩が描かれているのかなと思い、何となく「現在性からの疎外」というキーワードが思い浮かんだ(それは大いに、某社会学者の本を著作集を再読していたからかもしれない)。これについてもお正月にもう一度ゆっくりと鑑賞し、考えたい。
いずれにせよ、懐古主義者たちは、ウッディ・アレンに優しく叱られ嗜められますよ。



人生はビギナーズ
監督:マイク・ミルズ
主演:ユアン・マクレガークリストファー・プラマーメラニー・ロラン
あらすじはこちら→http://eiga.com/movie/56786/

老年の父から突然「自分はゲイだ。これからはゲイとして生きていくけれども、母さんのことは愛していた」と告げられた息子が戸惑いながらも父と生活するが、父の死(癌)の喪失感と父と母の複雑な関係に苦悩するという話。一見すると暗そうな内容だけど、そんなことはなくポップでキュートな作りになっているのだが、とても良い。自由な国であるアメリカにおいて、しかも公民権運動期において「ゲイ」であることがいかに過酷な生を強いられていたのかも垣間見える。そこにユダヤ人問題なども絡まってくるのだが・・・。
物語の時間軸が意外に複雑になっている。
どうでもいいことかもしれないけれど(いや、どうでもよくない。)、ユアン・マクレガーの彼女役を演じるメラニー・ロランは、当代きってのフランス美女だと思うのです。とてもとても美しいのです。

◯ワースト


ダークナイトライジング』
監督:クリストファー・ノーラン
主演:クリスチャン・ベールトム・ハーディマリオン・コティヤールマイケル・ケイン

言いたい事は山ほどあるのだが、やはり自分の中で期待がはちきれんばかりに大きかっただけに、見事なアメコミ的予定調和な結論に「ふざけんな!こんなもんノーラン監督には期待してねーよ!」って感じでした。

もちろん、冒頭のシーンはやはり素晴らしいですし、バットマンもかっこいいので、ごくごく普通のアメコミ映画として見れば楽しめるのでしょう。しかし、しかしですよ。我々は、クリストファー・ノーランの作るバットマンには、西洋キリスト教における古典的問題としての神義論や哲学的問題としての善悪論が「主題」としてあることを『ビギンズ』『ダークナイト』を見ることによって知っているわけです。あるいは『プレステージ』や『インセプション』のように比喩的に「映画の構造」を暴露してしまうようなメタ視点。それら批評的に論じられるべき要素が今作においては、全く削がれ落ちてしまっている(たしかに金融危機やオキュパイ・ウォール・ストリートなどの時事的なテーマが取り扱われてはいるけれども・・・)。やはりノーラン作品を愛する者としては憤慨ものですよ。まあ、ただ単に僕が見落としているだけなのかもしれないけれど。監督ではないけれども、製作総指揮の『スーパーマン』に期待しますよ。

ついでに言えば、『アベンジャーズ』も相当つまらなかったですが、エンドクレジットが終わった後に出てくる、ヒーロー達のあの疲れた姿は、強烈に良かったです。何だか僕らが欲望するアメコミ・シーンを存分に取り込み精一杯に世界平和のためではなく観客のために働いたヒーロー達が「どうだい?楽しかったろ。でも俺たち疲労困憊さ。次回作も決まっちまったようだし、あんたら(=観客)の欲望に応えるのは大変なんだぜ」と言っているようで、とてもとても意味深であのシーンだけが強烈に面白かった。