2012年に読んだ本あれこれ

今年も色々な本に出会えました。来年は、どんな本に出会えるか楽しみですござんす。

◯小説関連
今年は何と言っても「松浦理英子」イヤーでした。3月に読んだ『ナチュラル・ウーマン』はとてもとても素晴らしく「今年はこれ以上の作品に出会えるのか」と感想をtwitterで書いたけれども、やはり出会えなかった笑。松浦作品は、だいたい全て今年読んだけれども、どれもこれも抜群に面白い。著者自身も明言しているように、どの作品でも性器結合主義批判が徹底的に展開されている(一番新しい作品の『奇貨』では、男女間の「友愛」が描かれる)。どのように作品を受取っていいものかまだまだ自分の中で消化しきれていないけれども、しかし、圧倒的に面白いことは間違いない。何度も読んで自分のなかで熟成させていきたい。
中でも、やはり

ナチュラル・ウーマン

ナチュラル・ウーマン

犬身

犬身

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

です。今年出た『奇貨』も良かったですが。。。
あとはこれ
極北

極北

3・11を経験した僕らには、この世界観がどうしても異世界=物語の世界であるとは思えない。とても重厚な小説世界。

あとは、紀行文関連で石川直樹さんの『全ての装備を知恵に置き換えること』

全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)

全ての装備を知恵に置き換えること (集英社文庫)

一つ一つのエッセーは短くて、もう少し長くてもいいかと思うけれど、しかし「小さな世界 東京」を読むだけでもこの本を買う価値はあります。とても素敵な文章を書く冒険家です。その関連でブルース・チャトウィン『ソングライン』も読んだけれど、こちらはあまりだった。来年にでも『パタゴニア』を読む。

◯映画関連
何と言っても個人的には、今年は『ゴダール 映画史』が文庫化されたことでしょう。それにちなんで清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った『ゴダール全評論・全発言?』こちらもまだ全てを読めていないけれども、面白いっす。特に、アウシュビッツと映画に関して発言するゴダールの発言は、下でも紹介するユベルマン『イメージ、それでもなお』でも取り上げられており熟読必須です。

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)

ゴダール全評論・全発言3 (リュミエール叢書)

ゴダール全評論・全発言3 (リュミエール叢書)

それと蓮實重彦『映画論講義』(東京大学出版会)。これまで文体的なそれで、ハスミンの文章は忌避していたけれども、これは「です/ます」調で口語体で書かれているせいかめちゃくちゃ面白かった。調子こいて『ゴダール・マネ・フーコー』に言ったら、やはり文体的なそれで挫折した笑。来年は、ハスミン文体に慣れるようにするぞ。
映画論講義

映画論講義

◯学術関連
ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『イメージ、それでもなお』がとてもとても刺激的でした。《地獄からもぎとられた4枚の写真》の展示展を巡って沸き起った、ショアーの表象(不)可能性についての議論。20世紀に出現したこの「イメージ」という奇特な現象に対して、その肯定的側面と負の側面、その両側面をきちんと論じ(イメージの〈二重の体制〉)ながら、「それでもなお」、ショアーの表象不可能性を論じあらゆるイメージの存在を否定することで、この問題を論争不可能なレベルにし神学にしてしまおうとする一群(=ランズマン派)に抵抗し、イメージが有する可能性から、ショアーの表象可能性を力強く論じようとする好著。とてもとても面白かった。

イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真

イメージ、それでもなお アウシュヴィッツからもぎ取られた四枚の写真

松浦寿輝先生の『エッフェル塔試論』、こちらも面白かった。エッフェル塔に取り憑かれた著者が、表象されるエッフェルのその全てを語り尽くそうとする異様な熱気に満ちた本。再刊行された同著者『平面論』(岩波書店)は、まだちょっと未消化・・・笑。来年、新潮社から出る『明治の表象空間』もとても楽しみ。
エッフェル塔試論 (ちくま学芸文庫)

エッフェル塔試論 (ちくま学芸文庫)

それとこれ。
盲目と洞察―現代批評の修辞学における試論 (叢書・エクリチュールの冒険)

盲目と洞察―現代批評の修辞学における試論 (叢書・エクリチュールの冒険)

今年(というか、年の瀬)は、ポール・ド・マンの主著『読むことのアレゴリー』も出版されたけれども、まずは、こちらから。ポール・ド・マン、初めて読んだけど、鬼難しい・・・。っが、〈読む〉という行為を徹底的に考え抜こうとするド・マンの姿勢には感動すらする。久々に興奮し、何度も繰り返し「わからーーん」とぼやきつつ、テクストに向っている。ド・マンの文体の難解さは、恐らく彼自身の批評的態度から来ているものなのかな・・・と。正月もじっくり読む。
もう一つ。本書、冒頭に引かれているプルーストの言葉がとても良いです。

こんなふうに永遠に続く誤りこそ、まさに「生」というものなのだ・・・
プルースト失われた時を求めて』)


あとは、以下の本もとても刺激的だった。

社会 (思考のフロンティア)

社会 (思考のフロンティア)

↑「社会的」という日本語にはこれまで、何が欠落し何が忘れ去られていたのか。「社会的」なる概念を系譜学的に巡り直すことで、その概念を再構成=鍛錬させる。
社会学 (ヒューマニティーズ)

社会学 (ヒューマニティーズ)

↑「社会学に何ができ、社会学は何をすべきなのか。」その一つの回答がこの本で見つかる(と思う)。大学生の社会学徒時代に読んでおきたかったです。市野川先生の本は、どれも難しいけれども、とても勉強になる。
わたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義

わたしたちの脳をどうするか―ニューロサイエンスとグローバル資本主義

新自由主義と権力―フーコーから現在性の哲学へ

新自由主義と権力―フーコーから現在性の哲学へ

気流の鳴る音 (定本 真木悠介著作集 第1巻)

気流の鳴る音 (定本 真木悠介著作集 第1巻)

↑西洋的原理が強靭に吸着した現在において、それとは異なる時間を生き、オルタナティブな社会構想を行うためには何が必要であり、何を見るべきなのか。『真木悠介 著作集第二巻 時間の比較社会学』と一緒に読むべき。
官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

官僚制批判の論理と心理 - デモクラシーの友と敵 (2011-09-25T00:00:00.000)

↑政治思想史の枠組みからどのように現実的な諸問題にアプローチできるのかという、非常に貴重な試みであると思う。学生時代に読んでおけば良かった。。。タイトルは丸山真男からのをもじっているのは言うに及ばず笑。

来年は、経済と精神分析をもういい加減、きちんと入門する。